リーダーシップとone nation From シンガポール

執筆者
URVグローバルグループ シンガポール勤務通訳スタッフ
Y.K.様

東南アジアで目覚ましい成長を遂げたシンガポールは、資源は『人』であると公言している。そんなこの国のイメージは何といっても多国籍社会と罰金であろう。ガム禁止、公共交通機関へのドリアン持ち込みで罰金が課せられることは旅行書でも有名な話である。ルールを徹底することで異なるそれぞれの生活スタイルを共存させ、国としての透明性を明らかにしようとするポリシーを感じる。その実態はこの2020年のコロナ関連でも明らかだ。この記事を書いている2020年4月下旬の今、正に正念場。収束に向けてのさらなる厳しい自宅待機措置が発表されたばかりだ。

世界を巻き込むコロナの猛威。最初にドキっとしたのは旧正月の頃である。シンガポールは多くの中国系シンガポール人が人口を占め、国を越えて故郷や親族の住む家を行き来し盛大にお祝いする。その頃から楽しみにしていた旧正月のイベントが次々にキャンセルされ始めた。ずっとダンスの練習をしてきた娘は保育園での発表会のチャンスを逃し大変がっかりしていた。

3月に入り、全土の小学校から大学までの公立学校でオンラインの在宅学習の予行練習がなされた。シンガポールの公立小学校はIT学習を早期に取り入れ、保護者への連絡もペーパーレス化が進んでいる。学校独自の連絡はもちろん、担任とのやり取り、クラスの様子のシェアも紙面では無くアプリで行われる。日本でいうところの文科省のアプリは一括して入学制度の変更や年度スケジュールを全ての保護者への周知徹底の手法としてとても合理的である。学校のみならず企業などの職場でも避難訓練ならぬテレワーク訓練が予定に組み込まれ、ズレ出勤やオンラインの整備等が既に試されてきた。これもテロや各種の主要な国際会議に備えての国を挙げての対策だったと改めて知ることになる。

それらが済まされた後、4月7日からサーキットブレーカーが発動される。敢えてロックダウンという言葉は使われなかった。悪循環を断ち切る、という言葉を使った意図も説明があった。在住者の印象は概ね『やはり…いよいよか』であったように思う。その日の首相会見を長年家族のように懇意にしているシンガポール人の女性と観た。建国の父であるリークワンユー首相と同じ年月を生きてきたその女性は、頷きながらその措置に納得し『すぐに経済的な救済措置が出るわ』と動揺どころか、次の心配をしていた。絶対的な敬愛に値する建国の父の息子である現首相を『彼はとてもスマート。今の政治は気に食わないけど』と自慢げに皮肉も交えてつぶやいた。正直、これほどまで食い入るように現地ニュース速報、会見を観たことは無い。しかし、現リーシェンロン首相の話しぶりに私の心は落ち着き、腹をくくれたように思う。家族を守り、国を守り、収束への道を歩むのは自分たち一人ひとりの行動なのだと。それほど彼の演説は伝わるものがあった。

シンガポール政府は国民や在住者に対する心理コントロールが上手いのではないだろうか。私自身も首相会見でさすがだと感じたように、文句や反発の前に納得や安心がある。リー首相にパワフルさや物凄くワンマンな印象は受けない。しかし、そこはかとないリーダーシップのオーラがある。それは日々の国の取り組みと語り掛けが功を奏しているように思う。

毎年8月9日は国が一番盛り上がるナショナルデーである。今年で建国55年目となるので正にその時代を生きてきた人たちも多い。何といっても自ら独立を決意し、経済的に発展を遂げ、アジアでも抜きに出た存在となったこの国への愛国心とプライドは計り知れない。そして、若い人達への教育にも手厚い。その中に知らぬ間に愛国心が育っていく要素が組み込まれている。ナショナルデーが近くなるとテレビ、ネット、学校、イベント等様々な場所からテーマソングが流れてくる。キャッチーで心が安らぐようなメロディーと歌詞が、美しく未来に夢を感じるシンガポールの映像と共に。知らぬ間に口ずさみ、子どもたちは誇りを持って胸に手を当てて国歌と共に歌い始める。

全く強制されていないのに、思わずそうしたくなる、というところがポイントでは無いだろうか。コロナウィルスの蔓延が報道され始めたころから、ナショナルデーと同じように最前線で働く医療従事者の姿、素早い政府の水際対策、活動の自粛を自ら律する人々の姿を映像化し、ビデオクリップとして流している。そして、最新の医療、高度なビッグデータの管理を次々と打ち出し、『私たちはこの目に見えない闘いに心を一つにして立ち向かえる』と、心に訴えかけてくるのである。

そして裏付けするように、様々な取り組みが2月以降から順次行われていた。手薄になっていたサニタイザーのボランティア企業による全戸無料配布、政府による布マスクの配布は迅速だった。官僚の給料カットの代わり、不休の医療従事者へのボーナス支給。フライトが無くなったシンガポール航空乗務員による隔離要請の介助サポート。なるほど、と唸る対応に自身も身が引き締まってくるのだ。『北風と太陽』のおとぎ話にあるように、内面に働きかけてくるのである。

そればかりでなく、こんな状況下にあっても尚、『さすがシンガポール!』と称賛されるような有益なアプリや検査キット研究を発表し、即座に実用化している。驚くべきはそのスピードである。それら対策と同じスピードで、どんどん自宅待機措置は厳しくなっていくのだが、遵守を前提とするべく罰金がセットとなっている。Social Distance違反は日々厳しくなり、同居しない親族への訪問やいかなる外出も、マスク着用、持ち帰り用のランチを買う列の間隔、井戸端会議すら現行犯で警告無しの300ドルだ。摘発は適応から数日で200件以上に上った。悪質であったり複数回犯すとビザ剥奪となる。コロナ禍で職を失った人を始め、政府機関の人間が2,000人体制で全土を見回り、公園やフードコート、ショッピングモール等で厳しく取り締まっているという。陽性反応が出た人は職業、性別、年齢、住まい、立ち寄った場所までその日のうちに公表されるが、誰もが当たり前だと思っている。まるで映画の世界かと震え上がるが、その厳しさもまた『さすがシンガポール!』なのだ。

更に、全土に渡るおびただしい数で有名な監視カメラに加え、自警団的なボランティア活動(動く監視カメラ!)も加わり、もはや死角は無い。ここが透明感の所以で、元々シンガポールには政府が認める通報アプリがあった。悪質な交通違反や迷惑行為を誰でも自身の携帯で写真や動画に撮って訴えることができるのだ。その項目に『social distance』があっという間に加わった。

学歴社会で有名でもあるシンガポールの教育は、自宅学習期間の今、授業はオンラインで行われ、塾や家庭教師も当たり前の様にzoomやGoogleを用いたライブレッスンに切り替わった。加えて先日、この待機期間を、本来6月に予定されていたスクールホリデーとカウントし、待機措置が開けると同時に新学期スタートと日程を変更した。外にも出られない、友達とも遊べず旅行にも行けない日々をホリデーと呼ぶのはあまりにも可哀想だが、収束に向かったと措置が解除され、たくさんの人々が羽を伸ばしに各地へ出歩き、また感染経路不明な事例を起こすより、学校や職場で一括管理した方が、よほど賢明であるだろう。そして何より学力と気力を低下させてはならないのだ。

4月半ば以降、シンガポールの陽性者数は1,000人単位で確認される日が続いた。それはシンガポールの縁の下の力持ちとも呼ばれる、建設業や清掃業に携わる30万人にも及ぶ外国人労働者の寮における集団感染だ。居住費が高額なシンガポールで、彼らはドミトリーと呼ばれる密度の高い居住空間で共同生活をしている。今や展示会がキャンセルされたエキスポや海上ホテルを利用し、非感染者の棲み分けがなされている。これは大きな想定外だったと言わざるを得ない。日本を始め各国メディアは、シンガポールの感染者激増を政府のあいまいな措置と油断である、と大きく報道した。そんな中、発令したサーキットブレーカー2週目の折り返しとして、首相は会見で厳しい表情で『彼らの医療負担は政府が持つ。国民と同じような最善の医療と、彼らの祖国への仕送りを保障する』と断言した。次いで『バングラディッシュの労働者の一人は、一時症状が悪化した。しかし我々は決して諦めなかった。今は回復に向かっている。もう少しで彼は新しい家族となった息子の顔を見られるようになるであろう』と表情を和らげた。そこに胸にせまるものがあった。シンガポールは華やかな光の部分だけでは無い。輝かしく美しい舞台の裏には必ず影や苦しい部分もある。成功の秘訣は、もしかしたらその影となり、支えてくれる存在への尊厳が、国を作ってきた地盤として建国の頃から流れているのかもしれない。

多国籍と最初に言ったように、ここには様々な立場や国籍や考え方の人が一つの国という単位に集まっている。いや、国籍云々以前に人間は本来、一人ひとり気持ちも行動もバラバラなのだ。しかし、毅然としたリーダーシップが指揮を執ることで、人々の気持ちは一つとなる。そのことを今まさに体感している。皮肉にもコロナ禍が、私にそれを気づかせてくれた。

最後にシンガポールに在住して10年近くになるが、時々垣間見えるシンガポール人のウィットに富んだ表現が好きだ。マンションのエレベーターホールに、住人用のサニタイザーボトルが設置された。誰もが買占めに走ったり、手指消毒製品やマスクが品薄になった頃だ。

DO SANITISE YOUR HANDS BEFORE RETURNING HOME TO YOUR LOVED ONES, DO NOT REFILL FROM THIS BOTTLE OR WORSE, KIDNAP THIS BOTTLE HOME OK?』
(愛する人のもとに戻る前にこれで除菌してね。このボトルは詰め替え用ではないし、ましてあなたの家に連れて帰っちゃダメよ!)

思わず笑みがこぼれた。

【あわわの師さんコメント】

今、世界は、コロナ禍に、医療・経済、そして政治が打ち震えています。

そんな最中、URVグローバルグループのシンガポールの現地通訳のY.K.様から、現地レポートをいただきました。

日本人が観ることができないシンガポールの、「今」を伝える現地の、なまの記事として、是非、お読みください。

2020年4月 あわわの師さんより

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