韓国クラウドビジネス編 第5話「ソウル視察出張 後編」

株式会社バリューフェスの一行は、ソウルでのGLU+との商談で、今後の事業の方向性を見出した。GLU+との商談の翌日、執行役員の水谷隼人は、取り急ぎ、日本に帰国することになった。商談の成果を、東京で待つ阿部洋次取締役に報告し、バリューフェスのトップである大井川秀樹の支援をえながら、バリューフェス全体の協力体制を取り付ける動きを急がねばならないからだ。

水谷は、帰国の日、ソウルの明洞で朝食をとると、早々に、荷物をまとめた。通訳案内の李光名がホテルで手配したタクシーの助手席に乗り込み、山之辺伸弥も、水谷と並んで後部座席に座った。

タクシーは、スピードをあげて金浦空港に向かった。水谷が帰国の時間を見計らい、阿部は、大井川社長との会議を設定しているはずだ。

手土産は、搭乗口付近のショップで買うよ、と言いつつ、そそくさと出国審査に向かう水谷を、空港の検査場に見送った李と山之辺は、そのまま金浦空港のバスターミナルに向かい、ハングルで行先の書かれた、一本のバスに乗り込んだ。

その日から2日間、山之辺は、バリューフェスに入社してはじめての連休の休暇を取得したのだった。

バリューフェス入社以来、山之辺は、土日祭日の突貫で、自分の個人人脈との面会を続けた。そして、GLU+との接触後は、事業企画の立案を不休で急いだ。

山之辺が、これまで務めていた住宅メーカー業界は、土日や祭日が、まさに、顧客を獲得する絶好のチャンスのタイミングになっていた。顧客への提案が重なり、商談までに提案書や見積書などを準備し尽くさなければならない山之辺の仕事には、休暇など、全く存在しなかった。いわば、究極の「ブラックな職場での働き方」だったのだが、山之辺は、それを苦しいと思ったことは一度もなかった。自分が選んで入った仕事であり、周囲の営業マンに圧倒的な差をつけることを目指した山之辺にとって、会社から休暇をとれ、などと命じられること自体が、逆に、はなはだ迷惑な話だった。

このような環境の中、若いエネルギーに任せて、ほぼ不休で、三年間、住宅メーカーで仕事をつづけた山之辺にとって、バリューフェスに入社した後に、休暇を取得しないで働き続けること自体、別に、苦痛でもなんでもなかったのだ。

そんな山之辺の働き方を、阿部は、黙ってみていた。

そして、山之辺にとって、はじめての韓国出張が決まったとき、阿部は、さりげなく山之辺に、こう言った。

「山之辺くん。君は、韓国、はじめてだろ? 今後のためにも、商談が終わったあと、数日、韓国で休みをとって、ソウルを好きに観光してこないか?後学のためにもなるし、いい気分転換にもなるだろう。」

そうして、その山之辺の休暇中の、李の通訳人件費や、宿泊費用の経費を、阿部の裁量で、経費として認めた。現地での休暇をとるため、出張手当は、勤務の日数分しか支給できなかったが、向上心の高い山之辺は、この阿部の心遣いを、とても喜んだ。

水谷は、その阿部の清濁併せ呑む発想と、人心掌握術に、舌を巻いた。

山之辺のような、猛烈ビジネスマンにとって、無理やり、休暇を消化させて休ませるなどということをしても、本人のモチベーションに水を差すだけだ。やらなければならない仕事が山積していれば、無理に、休暇を消化させれば、仕事に無理が出てしまう。それであれば、大きな仕事が終わった後の、出張先で休暇を与え、海外で見聞を広めさせながら、同時にリフレッシュさせれば、その後の本人の成長にとっても、非常に有意義な時間となるだろう。

「そんなことをしてよろしいのでしょうか?非常にうれしいです。」

山之辺は、喜んで、阿部の好意を受けた。

山之辺は、李に相談しながら、その韓国での、その休暇で、ソウルから水原(スウォン)に、李と男二人旅をすることにしたのだ。つまり、李が、山之辺を連れて乗り込んだバスの行先は、水原だった。

水原市は、京幾道の道庁所在地である。金浦空港を発したバスは、高速道路を走行し、水原に向かった。

水原は、ソウルの南に位置する。北朝鮮との国境に近いソウルは、東京以上に安全保障上の問題が大きい。そのため、韓国政府は、水原や、大田(テジョン)に、首都機能を分散している。特に、韓国最大の財閥企業、サムソンも、水原に本社を構えていることを、知らない日本人は多い。

だから、水原は、韓国第二の都市である釜山(プサン)と並び、韓国の重要なエリアであった。日本人観光客も多いソウルに比べ、日本人は格段に少ない。

ソウルには、李氏朝鮮時代の景福宮などの「都」としての歴史的な観光地が多い。一方、水原には、水原華城がある。ユネスコ世界遺産にもなっている水原華城は、ユーラシア大陸型の城塞であり、水原は、日本にはない、「城塞都市」であった。

日本の城は、鉄砲伝来前の山城であれ、江戸時代の平城であれ、戦争では、戦闘部隊である武士団が籠城し、敵方がそれを取り囲んで攻め落とすという発想の元で築城されている。したがって、敵襲があった場合、庶民は城の外に取り残され、侵略軍から乱取りなどの乱暴狼藉を働かれた。戦国時代、大量な日本人が奴隷として、世界に売られたのは、このような日本の城郭の構造と無関係ではない。一方で、日本の場合、侵略軍は、戦闘になれば城の外に取り残される村落を、早期に味方につけ、名将ほど、侵略前から、勝ち戦の戦後処理の準備を開始できるメリットがあった。つまり、籠城して命をかけて戦うのは、武士団だけであり、庶民は、早々に、強い敵に寝返ってしまうことになる。だから、総力戦となった場合の損害は、主に戦闘集団だけという、経済的には非常に効率のよい戦争が可能となった。

一方、中国や大陸型の城郭は、街をすべて城壁で囲い、侵略に対して、街ごと籠城し、敵を迎え撃った。そのため、敗北をすれば、街ごと焼き払われるといった甚大な被害が出る。だから、ジンギス・カンのようなユーラシアの侵略軍は、侵攻地域すべてで、大量殺戮を行わざるをえなくなり、敵を迎え撃つ総力戦が可能になる半面、敗者の経済的な復活は絶望的となった。


これが、日本の城郭と、ユーラシア型の城郭の違いだ。

水原華城は、日本から一番近い、ユーラシア型の城郭だ。李の説明に、水谷は、是非、その水原華城の城壁を歩いてみたいと、李に案内を依頼したのだった。

水原華城

その夜、李と山之辺は、この地が発祥とされる骨付きカルビの店を梯子した。

山之辺にとって、海外で、のんびりと時間を過ごすのは、大学の卒業旅行以来、はじめてだった。

カルビの油が、炭に滴り、炭が炎をあげて燃え上がる。その炎を消化する氷を網の上に投げ込んでも、燃え上がる炎は収まることを知らない。

李が、山之辺との酒席を盛りあげようと、おどけて、気のよさそうな店の中年の女性店員を、韓国語でからかい、腰に手を回す。日本の普通の焼肉店で、こんなことをすれば、セクハラまがいの行為として大変なことになるわけだが、韓国の地方の街では、女性の店員も、極めて呑気なものだ。

そのまま、李の隣の席に座り込んで、ビールを飲み始めてしまう。

山之辺が気を遣い、その女性に、そっと10万₩(日本円で約1万円)を渡すと、彼女は、おおきな嬌声をあげ、さっさと李の隣の席を離れ、山之辺の隣の席に座りこみ、若い山之辺に抱き着いた。

シャイな日本人男子の山之辺は、突然のことに、目を白黒させている。

「あらあら・・・。山之辺さんに、もってかれちゃった。
お金のあるヒトには、かなわないわ。」

李が、おろおろする山之辺を観て、山之辺をからかう。

こんな光景の中には、日本で報道されている反日など、どこにも見当たらない。山之辺はそう感じた。

山之辺が帰国をし、出社をする頃には、阿部と水谷が、大井川の支援をとりつけているだろう。そうなると、いよいよ、GLU+との提携する事業が現場で動き出す。そう思い、その期待と、ビジネスの夢に、心が躍る、今夜の山之辺であった。


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