韓国クラウドビジネス編 第6話「ビジネスモデル、稼働」

ソウル出張から東京に帰った水谷隼人執行役員と、阿部洋次取締役の動きは速かった。

阿部は、かつての自分の部下でもあった坂田将副社長が、阿部の事業の不成功を演出して、阿部を、バリューフェスの役員から追い落とす魂胆を抱いていることを、とっくに見抜いていた。

坂田が取締役会で多数派工作を行い、阿部のビジネスモデルに、バリューフェスの営業現場の力を総動員することを封じる隙を坂田に許せば、せっかく、山之辺伸弥が段取りをして作りあげてきたビジネスモデルが、画餅に帰することになると、阿部は読んでいた。

奇襲作戦を、阿部はとるつもりだった。

水谷が、帰国の飛行機の中で制作した報告書を一読すると、阿部は、大井川秀樹社長の秘書室長を捕まえて、大井川のスケジュールを確認し、外出する大井川の社用車の後部座席の、大井川の横の席に、アポもいれずに、強引に乗り込んだ。

大井川の車は、東京商工会議所の役員としての、会合に向かうところだった。

青山にある、バリューフェスの本社から、大井川の社有車が、丸の内にある東京商工会議所に到着するまでの時間。大井川の逃げ場を閉ざした車の中での時間があれば、阿部には充分だった。

阿部は、あたかも自分がソウルで、GLU+と商談をしてきたかのような臨場感で、大井川に商談の結果を報告し、山之辺が、出張前に阿部を通して大井川に提出した、採算計画が、現実的なものであることを説明した。

そして、車の前方に皇居が見える頃、阿部は、核心の話に入った。

「大井川社長。

このGLU+のデータセンターは、施設面・セキュリティー面・コスト面、そして、GLU+が韓国第二位の巨大財閥である、というブランド面からみて、日本のデータセンターを活用する、IT系企業には極めて魅力的です。

加えて、我がデビジョンでは、社長の御子息である大井川茂くんに、サーバーエンジニアのチームをつけてソウル支店長として海外出向させます。こうすることで、日本のクライアントからの、サーバーメンテナンスを引き受け、クライアントは、安心して情報ネットワークをソウルにあるデータセンターを使っても、維持することができます。」

大井川秀樹は、息子の茂を、株式会社バリューフェスに入社させ、海外進出コンサルティングセクションからソウル支店長に抜擢する阿部の人事には、むしろ、大井川の意を汲む、魅力的な計らいを感じた。

次期社長を目論む、坂田であれば、茂の人事で、このような計らいはしないであろう。

加えて、阿部が、海外コンサルティング事業を立ち上げてから、非常にスピーディに、バリューフェスが豊富に有するIT系企業の顧客向けの、データセンターサービスを韓国財閥系企業と組んで立ち上げたスピード感。

これを、非常に喜ばしく感じていた。

他のものにやらせていたならば、坂田副社長の意向を気にして、非常に多くの時間をロスしたに違いない。

やはり、阿部にやらせて正解だったと、大井川は感じていた。そうであれば、坂田の力から、阿部を自分が守ってやらねばなるまい。

大井川は、バリトンの利いた口調で、阿部に、こう言い放った。

「いいだろう。
非常に、スピーディな立ち上げだ。

まずは、GLU+との提携を社内発表し、メディアにもリリースする。

うちが、GLU+と提携して、新たなITサービスを立ち上げれば、経済誌や、テレビの経済ニュース、業界誌でも報道される。

これを、基礎に、全国の営業所に、俺が、直接、檄を飛ばして、売らせよう。明日の朝の、全支店長テレビ会議で、俺が、直接、発表してやる。

うちの、はじめてのグローバルな商材だ。大いに、社内にも啓発しようじゃないか。
バリューフェスの、グローバルビジネスの旗揚げを、俺が社内外にアピールしてやるぞ。」

翌日の朝。

大井川社長は、阿部取締役との約束通り、全支店長が参加するテレビ会議で、GLU+との提携を発表し、阿部が、責任者として、その事業内容を説明した。

大井川は、各支店が囲い込む、データセンターを活用するIT企業クライアントの営業担当者に、報奨金付きのノルマを与えると発表し、翌月から、全店の営業による販売開始を指示した。

韓国から帰国した山之辺は、全国の支店の営業担当者からの問い合わせに対応を行いながら、部下の森隆盛や、溝口香里とともに、販売促進用のツール制作を開始した。

加えて、ソウルに出向が決まった大井川茂とともに、IT企業クライアントの経営者や、技術者向けの、韓国GLU+視察旅行の企画を、李光名や、李を山之辺に繋いだ大西春樹が企画部部長を務める、大手旅行社である株式会社旅行創造の協力をえて、組み始めた。

同時に、バリューフェスの技術部門と、韓国ソウル出向のサーバーエンジニア人材の選定に入った。

バリューフェスの海外進出コンサルティングセクションは、大井川の号令を合図に、韓国GLU+との提携ビジネスに、総力をあげて動き始めた。

日経新聞が、大井川社長の写真入りで、バリューフェスと韓国第二の財閥 GLグループの事業提携の記事を発表した。これに起点として、民放各局の経済ニュース番組が、これをニュースとして取り上げた。バリューフェス本社にも、これらの報道をみたクライアント企業からの問い合わせが入りはじめた。

全国の営業には、山之辺のチームが制作した営業ツール・サービスメニューと価格表が配布された。こうなると、バリューフェスの営業力は、非常に強い。

サービスに興味を持った企業の経営者や、技術者による韓国GLU+視察旅行の申し込みが、どんどん、増えていった。

そして、この視察旅行をソウルの現地で実施するため、大井川茂は、ソウルへ出向となり、ソウルに向けて、飛び立っていった。

坂田将副社長が、バリューフェスの幹部に、牽制をかける間も与えず、大井川の絶大な発信力に踊ったバリューフェスは、韓国データセンター提携ビジネスへと、現場を巻き込みながら、邁進していった。

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